「妊娠しやすさ」の測り方とその課題についての講演要旨です。

2018年5月20日に性と健康を考える女性専門家の会の総会シンポジウムで講演をさせていただきました。

2018年度総会シンポジウム報告「出産適齢期と性教育~女性がほんとうに自分らしい人生を歩むために必要なこと」
講演1 高校保健・副教材事件から見えてきたこと 西山千恵子
講演2 「妊娠しやすさ」の科学の動向と課題 小西祥子
講演3 世界から見た日本の性教育 橋本紀子

小西の講演要旨として、「一般社団法人 性と健康を考える女性専門家の会ニュースレター vol.72 2018年8月20日発行」に寄稿した文章です。

東京大学大学院医学系研究科
国際保健学専攻 人類生態学教室
小西祥子

「妊娠しやすさ」の科学の動向と課題 講演要旨

人類の多様性について研究する視点から、「妊娠しやすさ」の科学的な測定方法およびその課題について解説しました。人口学では生まれた子どもの数の指標である出生力(例:合計出生率)に対して、妊娠する生物学的能力を妊孕力(にんようりょく)といいます。カップルの「妊娠しやすさ」ともいえる妊孕力を直接測ることはできませんが、妊娠(受胎)待ち時間(time to pregnancy, TTP)を測ることによって評価することができます。すなわち避妊をやめてから受胎するまでにかかる期間が長ければ妊孕力が低く、逆にその期間が短ければ妊孕力が高いことになります。妊娠待ち時間は人口学的にみると出生力の近接要因(出生力に直接影響を及ぼす生物学的・行動学的要因)であり、環境保健学の分野では化学物質曝露がヒト生殖機能に及ぼす影響の指標です。さらに臨床医学からみると、妊娠待ち時間が一定期間長い場合に不妊とみなすことができますし、子どもを望むカップルにとっては子どもを授かるための待ち時間を表すといったように、多面的な意義をもつ指標です。ある集団の妊孕力を評価するためには、妊娠に至らなかった方の打ち切りデータも含めて統計解析を実施することが重要です。妊娠待ち時間の長短に寄与する要因として、性交頻度、月経周期の長さ、排卵のある月経周期の割合、排卵があった場合の受胎可能期間の長さ、受胎可能期間における1回の授精で受胎する確率(日ごとの受胎確率 daily fecundability)があります。日ごとの受胎確率は同じ年齢のカップル間でも大きな違いがあると推定されていますが、その異質性の原因はまだ解明されていません。妊娠待ち時間についてさらなる調査研究が待たれる一方、妊孕力について研究する立場として、子どもを望む男女に伝えなければならないメッセージがあると考えます。それはどれだけ努力しても妊娠しないこともあること、子どもがいてもいなくても幸せに生きられること、そして人(人生)の多様性にこそ生きることの尊さがあることです。

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